「結婚・妊娠・出産」は、女性にとって関心の高いキーワードのひとつ。愛・夢、未来などを感じさせるポジティブで明るい言葉であると同時に、これまでの自分を失うような恐ろしさや重たい責任、社会や親からの圧などがふと頭によぎり、マイナスな妄想や不安を引き寄せることもあります。
そんな「結婚・妊娠・出産」に、豪速球で新たな視線を投げかける、恐ろしく痛快で驚くほど面白い小説が発表されました。それが、小説家・綿矢りささんの『グレタ・ニンプ』。
俊貴は控えめで笑顔が可愛い由依と結婚した。不妊治療を4年続けたがうまくいかず、夫婦ふたりで生きていくと決めた矢先、俊貴が仕事から帰宅すると、由依が珍妙な格好で踊っていた。「ヨウセイダーーーーッ!」。妊娠した喜びで(!?)、由依は内面、外見ともに豹変。髪型はアメリカのバスケットボール選手デニス・ロッドマンのように、喋り方は『ドラゴンボール』の孫悟空のようになってしまう。驚きと笑いに満ちた夫婦の妊婦生活と出産後を描き出す「グレタ・ニンプ」と、バレンタインに手作りチョコを! 壮絶な一夜の奮闘を描いた「深夜のスパチュラ」の2編を収録。
週刊誌『女性セブン』連載中から、「面白すぎる」「早く続きが読みたい」と圧倒的な共感と人気を誇ったこの小説は、2月1日に待望の単行本が発売されると、すぐさま文芸の売れ筋ランキングにランクイン! ブックデザインも最高で、このカバー画像からも、そのファンキーさ、面白さがあなたにガンガン伝わってくるはず。
そしてこの小説のジャンルはなんと“妊婦コメディ”。といっても、クスっと笑える妊婦ライフ…とかでは、まったくありません。冒頭から斜め上をいく(というか、ホラー小説のようで度肝を抜かれる)展開で、気がつけばページをめくる手が止まらず、その内容にジェットコースターに乗ったかの如くブンブン振り回されながら、大笑いしたり泣きながら笑ったりして、最後まで一気に読めてしまう作品です。そして読み終わった後に、主人公・由依のように「わきまえません、それがthis is me」と大声で言いたくなるくらい、体の奥からプリミティブなパワーが湧いてくる小説です。
女性の皆さん(というか日本中の人)に、ぜひ今すぐ読んでもらいたいおすすめ小説『グレタ・ニンプ』。作者の綿矢りささんは、連載中どのように執筆し、この反響にどんな思いを抱いているのでしょう。ご本人に直接インタビューし、お話を伺ってきました♡
実はCanCam読者で若いときはコンサバOLファッションが好きだった! 綿矢りささん独占インタビュー
──今日はお時間をいただき、ありがとうございます。『CanCam』は幅広い年齢の読者がいますが、20代の女性に多く読まれています。その中で、結婚や妊娠・出産は関心事のひとつ。綿矢さんの小説『グレタ・ニンプ』は読者のみなさんたちに強く響く作品ではないかと感じ、今回取材を申し込ませていただきました。
綿矢りさ(以下、綿矢):お声掛けいただけてうれしいです。実は私、昔『CanCam』を読んでいたんです。社会人になってからはお姉さん版の『AneCan』を愛読していて。毎月必ず雑誌を買ってコーデを研究し、銀座のプランタン(現在マロニエゲート2&3がある場所)でお買い物して、モテ系コンサバファッションに身を包んでいました。なので、あの『CanCam』に…! と楽しみにしてきたんです。
──大変光栄です…! 読者にアンケートを取ったところ、「人生で1度は結婚したい」と答える人が8割ほど。すでに結婚している人もいますし、妊娠・出産を含む先々のライフプランを考えて行動している人も多いんです。妊娠・出産は働き方にも影響を及ぼすので、共働き夫婦が増えている現代では、考えざるを得ないというのが正直な部分かもしれません。そんな今、綿矢さんが“妊婦コメディ”を書かれたのはなぜなんでしょう?
綿矢:週刊連載のお話をいただいて、構想を練っていたときに「妊婦さん」と「エキセントリックさ」って、あまりみたことがないなと、ふと思ったんです。そして、お腹が膨らんでぽよんとした体つきになった妊婦が、パンクロックな雰囲気で生き生き動いてる姿が頭に浮かびました。無性にそれを書きたいと思って、筆を取ったら自然とコメディ調になった…という感じなんです。
──主人公の由依と俊貴には、モデルがいたりしますか?
綿矢さん:参考にした人や、モデルにした人は特にいないんです。最初に頭に浮かんだのは、ごく普通の夫婦。由依はそこに、「推理小説『八つ墓村』の登場人物のように懐中電灯を頭にハチマキで巻いた姿」「孫悟空みたいな話し方」「デニス・ロッドマンのような髪型」という風に、キーワードで設定をつけていったように思います。
──この小説は、夫である・俊貴の視点から描かれていますよね。彼のスタイルや考え方、価値観は、『CanCam』読者と年の近いZ世代のメンズ達の姿と重なりました。
綿矢:特に意識したわけではありませんが、男性を語り手にする場合、あまりマッチョな人にすると、自分にはそういう要素がないので書きにくくなってしまうんです。オシャレに興味があったり、考え方がソフトだったり、どこかニュアンスがある男性のほうが、私としては書いていて動かしやすい。俊貴のキャラクター設定は、一人称の男性が主人公となる小説を書くときに、乗り越えるための仕掛けでした。昔は「男は男らしく」といった固定概念の価値観を持つ人が多かった中、現在はみなさん柔軟になってきているので、俊貴が今っぽい人物に見えるのかもしれませんね。
──俊貴が古風な考え方だったら、由依の変化についていけず、物語はこんな風に転がらなかったのではないかと感じました。それを見越してキャラクター作りをしているのかなと感じたのですが、いかがですか?
綿矢:たしかに、人によっては由依の言動に怒ったり、ついていけなくなるかもしれません。場合によっては離婚を考える可能性もありますよね。夫が怒りん坊で亭主関白なタイプだったら、物語が続かないというのは考えていたかと思います。そして、思ったことを口にあまり出さない内向的なタイプがパートナーであるほうが“ツッコミ役”として面白いなと感じました。「お前何してんねん!」なんて言ってしまう人がパートナーだと、由依が委縮してしまいそうですし、物語を面白く書けない気がして。心の中でツッコミを入れるタイプの夫にしたほうが、この小説には合っていると思ったんです。
──この物語は、様々なことが起こるジェットコースターのような内容ですが、詳細なプロットや結末を用意して書き始めましたか?
綿矢:全然! 妊婦が登場するので出産までは書く必要があるなとは考えていましたが、それ以外はあまり意識せず、連載に向けて書き始めた…という感じです。どういう風に終わらせるのかは、書き始めた時点では思い浮かんでいませんでした。書きながら意識していたのは、妊娠から出産までの過程。今まで小説で妊娠から出産までの過程を書いたことがなかったので、「この頃につわりがあるな」とか「そろそろこれくらいお腹が出てくる時期だな」など、妊娠について調べながら、カレンダーに沿って物語を紡いでいきました。自分の妊娠時の記憶も役に立ちましたが、「この頃赤ちゃんはどれくらいの大きさに育っている」といった知識は忘れていることも多かったので、改めて調べながら書いていました。作中のマクドナルドのポテトを由依が食べるシーンは、自分の思い出からインスピレーションを得て書きました。妊婦さんのあるある話としてよくこの話を聞きますが、私もまさにそうなったんです。妊婦時代、マクドナルドのポテトにはすごくお世話になりました(笑)。苦労があったとしたら、書きたいことと妊娠カレンダーを合わせるのが難しかったですね。他にはあまり苦労はなかったです。
──綿矢さんの妊婦時代の思い出も作品に影響を与えているんですね! この小説、ところどころ文字が大きくなってフォントまで変わっているのが印象的でした。勢いがあって、面白さに勢いが加わっている気がします。
綿矢:『女性セブン』で連載していた当時、文字やフォントを変えていただく演出をしていただいていたんです。他のページもかなり勢いがあるデザインが多かったので、埋もれないようにそうしていただいていたんです。書籍になるときは、フラットなデザインにする予定だったのですが、「あの時のデザイン面白かったね、続けて書籍もそうしてみませんか」と相談されて。それでチャレンジしてみました。連載時と書籍版は、大きくした箇所などが実は少し変わっているんですよ。
──書影のイラストもパンチがありますね! 由依はこんな姿なんだなと、想像しながら読みました。イラストを描いていただくときにこだわったポイントはありますか?
綿矢:実はこの本、かなり急ピッチでデザインをしていて。イラストもかなり短期間で仕上げていただき感謝しています。イメージを伝えてラフをいただいたんですが、ほぼこの感じに仕上がっていていたので、少しだけ修正をお願いして仕上げていただきました。大抵は何度かやり取りしながら作っていただくんですが、今回は最初からイメージにとても近くて。私から修正をお願いしたのは、「頭の柄を書き足してほしい」「由依を妊婦らしい体形に少し修正してほしい」という2点くらい。お腹が大きくて、妊婦らしい丸みがある体形にしたかったんです。お気に入りポイントは、このヤンキー座り。ラフをいただいて「ヤンキー座りって、はたして妊婦さんがしていいものなのか…」と調べてみたんですが、意外にもこの座り方は妊婦にいいそう。骨盤が安定するので、むしろやったほうがいいと知って、安心してこのポーズにできました。
──そうだったんですね! 作中には、お気に入りのフレーズはあったりしますか?
綿矢:大きな字になっているところは、大体どこも気に入っています。「ここで笑ってほしい」というような、私からの圧を感じさせているかもしれませんが(笑)。お気に入りのシーンはたくさんあります。たとえば、由依が腹にさすらいの吟遊詩人にメッセージを書いてもらってマタニティフォトを撮るシーン。自分でも何を書いているんだろうと笑ってしまうくらい、書いていて楽しかったんです。作中のふざけたおしている部分は、自分でも楽しんで書いていましたね。
──そのノリノリ感、読んでいて伝わってきました! 逆に書けなくて悩んだ…なんてシーンはありましたか?
綿矢:週刊連載だったので、書けないと言っている暇はなかったですね。それが逆によかったのかも。勢いで書いていかないと、登場人物のテンションについていけなくなりそうな作品だったので、締め切りがどんどんやってくることでテンションの維持ができた気がします。
──この作品、由依はもちろん、俊貴も大きく変わっていきますよね。登場人物がありのままに自分らしく生きる過程が描かれているように感じ、そこにとてもエンパワメントされました。綿矢さんはこの作品で、読者に何か感じてほしいこと、考えてみてほしいこと…など、何かメッセージを込めたりしていましたか?
綿矢:男性からの目線で書いたのは、妊娠・出産は女性が主役と思いがちですが、“サポートする側”として存在も描きたかったというのがあります。サポートする側として存在すること自体も大変なことですよね。あと、真面目な性格の由依が、真面目だったからこそ過激にはっちゃけて、それによって自分のやりたいように生きられるようになっていく。その過程で彼女は自信を持てた気がするんです。そういう部分には、保守的になりすぎず、好きなことをやるっていうものいいんじゃないかというメッセージを込めています。
──『CanCam』読者の中心の働く20代たちは、タイパやコスパを意識して、間違いを避けたい、失敗や損をしたくない傾向がある気がします。この小説はそういった価値観に縛られている人に、良い刺激を与える作品のように思いました。
綿矢:『CanCam』の読者世代の方が読んだら、「寄り道すぎる」なんて感想を持つかもしれないですね。この小説の主人公たちは、効率がいいことをしている訳でないので。個人的には、こうしたほうが得だ、こうすれば上手くいく、なんて思って打算の気持ちで物事をこなしていると、上手くいかなかったときに折れてしまいそうだなと思ったりします。
──この作品では、人生を真っすぐ生きてきた主人公夫婦のふたりが、妊娠でつまづき、不妊治療する中で迷い傷ついて、挫折感を味わうシーンがあります。身の回りでも不妊に悩む方の話を聞いたことがあるので、このシーンはとても心に刺さりました。努力してもどうにもならないことって、ありますよね。
綿矢:そうですね。主人公の由依と俊貴は、それまで自分に厳しめに生きてきた人だと思います。でも、不妊治療を通して、医者の言う通り、正しいとされることを頑張っても上手くいかないこともあると知るんです。それによって、ちょっと方向転換ができたのだと思います。『CanCam』の読者の方も、ずっとコスパやタイパを意識して、間違えないように頑張るという生き方をするのは大変だと思います。ちょっと柔軟になれる期間があったほうが、生きるのは楽になるんじゃないでしょうか。
──綿矢さんご自身は、自由に生きたほうが楽しいと思うタイプですか?
綿矢:私も20代から30代の初めは、理想の生き方や仕事の仕方があって、『CanCam』の読者の方もあるかもしれませんが「うかうかしていられない!」「若さを有効に使わないと!」と力むような気持ちがありました。「自由に生きる」「自分らしく生きる」ことが大事だなと思えるようになったのは、40歳になってからですね。
──『CanCam』読者の方の中には、今後の人生に不安や迷いを抱えている人も。作中、不妊治療のために由依が仕事を辞めるシーンがありましたよね。共働きでないと子育てが難しくなっている中、仕事と家庭の両立は女性にとって大きな悩みの種になっています。そういう悩みに対して、綿矢さんはどう向き合ったらいいと思いますか?
綿矢:悩む気持ち、とてもよくわかります。すんなり妊娠できて、パートナーや他の家族が助けてくれて、会社も理解があって。出産や育児も助けてくれる人が周りにいれば仕事を続けることもできますが、色々な要因で両立が難しい場合もありますよね。どちらか選ばねばならないとなったときに、真面目な人ほど悩むと思いますし、仕事と家庭の両立に私も悩みました。そんなときは、断崖絶壁に追い詰められて、「将来がどうなろうと、そちらを選ぶ覚悟はあるのか」と決断を迫られているような感覚がありました。そのときは、総合的に後悔しないだろうという判断に基づいて選ぶというより、もっと気落ち的な部分で選んだ部分が大きい気がします。マイナスが少ない方を選んで気持ち的にしっくりこなかったら悲しくなると思うんです。「マイナスは大きいかもしれないけれど、自分はこういう風にしたかった」と思える選択をしたほうが、未来に納得できる気がしたんです。こういった選択はとても難しかったですが、この年になって、案外心に従うのって大切だったなと思うんです。
──AIが登場し、時代がどんどん変化している今、『CanCam』読者の方にはどのように生きてほしいと思いますか?
綿矢:時代の変化と共に、求められる・憧れられる女性像・男性像も大きく変わってきましたよね。これからもきっと変わっていくと思います。でも人はそれぞれ個性があるし、求めるものも様々。理想像をに振り回されると苦しくなるのではないでしょうか。私が皆さんくらいの年齢だった頃は、“モテ”ることが理想とされていて、いかにモテるかという目線でファッションや行動を選択していました。今思い出すと自分を“時代の理想像”に押し込んでいた部分があったなと思います。最近は、時代に振り回されないことも大切だと感じるようになりました。今の女性の理想像は、その頃と比べるともっとパワフルなイメージ。仕事もプライベートもバリバリ楽しんで、コスパやタイパのいい人生を送るのが素敵…という感じがします。ただ、こういう像を体現するのが向く人ばかりでなく、向かない人もいるはず。理想の像になろうとする前に、自分はどういう人間なのかを知って、その努力する部分・抜く部分を取捨選択していくことが大切なんじゃないかな。
──確かに、全部理想通り完璧に叶える…なんて、難しいですよね。
綿矢:そうですよね。自分より少し世代が上の女性と話していると、その方が若かった頃の“理想像”の話が出ることがあるんです。その内容は、自分の時代とは全く違っていて。例えば「アッシーくん(※デート先などに送迎してくれる男性)がいる」「イタ飯(イタリアン)をよく食べに行く」なんて女性が素敵とされていたとか。理想像にもトレンドがあって、どんどんうつり変わっていると感じます。その時代のトレンドを追うのは楽しいですし、それはそれでよいことだなと思いますが、別の部分では冷静になって「この時代に産まれなかったら、自分はどんな人間だったんだろう」と考えてみるといいんじゃないでしょうか。
──それはとても面白い視点ですね。
綿矢:自分で想像してみると、今とは絶対違っていただろうと思います。例えば昔の日本、女性は結婚して家庭に入ることが美徳とされていた時代に生きていたなら、私は小説家になれなかった、もしくは、ならなかっただろうと思うんです。様々な可能性を考えて、自分だったらどうするかを考えてみるのは、自分の本質を知るひとつの方法だと思います。
──最後に、読者世代にメッセージをお願いします。
綿矢:この作品は、ぜひ男女関係なく幅広い年代の方に読んでいただけたらいいなと思っていて。若い世代の皆さんにもこの本を手に取ってもらえたら、とてもうれしいです。ぜひ感想を聞かせてほしいですね。結婚妊娠はまだまだ先って思っている方はもちろん、20代で結婚して子供を持ちたいなんて考えている方にも、読んでみてどんな感想を持ったか教えてほしい。もしかしたら、主人公たちを見て「バカだな~」「計画性ないな~」なんて思うかも(笑)。でも、それでも全然かまいません。率直で新鮮な感想、お待ちしています!
綿矢りさ
1984(昭和59)年京都府生れ。2001年に『インストール』で文藝賞受賞。2004年には『蹴りたい背中』で芥川賞受賞。2012年には、『かわいそうだね?』で大江健三郎賞、2020年『生のみ生のままで』で島清恋愛文学賞受賞。『勝手にふるえてろ』『ひらいて』など、作品が数々映像化されている。
Information
小説『グレタ・ニンプ』
●内容紹介
俊貴は控えめで笑顔が可愛い由依と結婚する。不妊治療を4年続けた末、夫婦2人で生きていくと決めた矢先、俊貴が仕事から帰宅すると、由依が珍妙な格好で踊っていた。「ヨウセイダーーーーッ!」。妊娠した喜びで(!?)由依は内面、外見ともに豹変。髪型はデニス・ロッドマンのように、喋り方は『ドラゴンボール』の孫悟空のように…!
バレンタインデー前夜の壮絶な奮闘を描いた「深夜のスパチュラ」も収録。
●定価 1870円(税込)
小学館公式サイトHP 『グレタ・ニンプ』紹介
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