幸せでい続けられる場をつくるためのカギを探しに
世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考え、2020年から約3年半続けてきたこの連載も、いったんここでひと区切り。今回は「これまで学んできたサステナビリティを体現している町の方々にお会いしたい!」と、神山にやってきました!
ここからは、トラちゃんが徳島県・神山で出会った方々との対話を通して発見したことをご紹介していきましょう!
徳島阿波おどり空港から車で約1時間、賑やかな市街地から徐々に離れ、緑豊かな里山へ。滞在先に到着した瞬間、思わず駆け寄ったのがこの縁側! 町と共に70年を重ねた佇まいと通り抜ける風に、この地で暮らす人々の温かさが迎え入れてくれたような不思議な感覚に…。
連載を始めた頃からずっと変わらないのは、サステナブルって「自分と自分の大事な人たちが、幸せでい続けられる場をつくること」だなという思いです。かつて消滅可能性都市のひとつに数えられながら、今や〝創造的過疎〟と呼ばれる神山には、古きも新しきも受け入れて課題を解決していく、おおらかな土壌があると感じました。自然保全、地産地消、教育改革、古民家再生…様々な取り組みに触れるこの旅を通じて、未来を変える扉を一緒に開いてみませんか?
自然の循環の輪に溶け込み、森を回復するサウナ
■めぐりゆくサイクルに人と自然の共生を知る
最初に私が訪れたのは、森の隠れ家のようなサウナ。木々のざわめきや鳥のさえずりに包まれ、幻想的な気分に…!
会社員として忙しく働いていた齊藤郁子さんが、神山に移住したのは11年前。「東京で都会を満喫しながらも、持続可能な生活をしていないことに薄々気づいていました。心地よいライフスタイルを自分で築きたいと思い、神山へ。古民家と山林と軽トラを購入し、今の宿の前身となるフレンチビストロを始めました」(齊藤さん)
2014年のフィンランド旅を機に、森づくりのためにサウナをつくると決心し、まずはチェーンソーで木を切ること4年。ノコギリとノミで建てること2年。
「暗い森に初めて光が差し込んだ時の感動を今でも覚えています。少しずつ下草や低木が生えてきました。薪を燃やした灰を森に還すと、土壌が豊かになり花や実をつける植物が増え、フクロウの親子やアナグマが棲みつくように。神山での暮らしは、自分と自然は一体なのだと教えてくれますね」(齊藤さん)
私自身、趣味の乗馬で通う千葉や長野の自然に感じていたこと。生活の中に森がある豊かさを改めて体感できました。
\討伐した木を薪にして、燃料に!/
長年放置された人工林が生まれ変わり、優しい光が差し込む森。こちらでは周辺の植物を採ってヴィヒタのように束ね、澄んだ湧き水を汲んでロウリュを楽しめます。サウナで温められた体を冷ます、清らかな水流と沢が最高の水風呂に♪ 北欧の森との共生を思わせるセルフビルドのサウナ小屋で、薪割りもかけがえのない体験でした!
\汗をかいたら森林浴でととのいます/
\サウナでは雑念から解き放たれ「無」に…/
\湧き水を沸かしコーヒーでひと息/
「生命力あふれる森がおいしい水をつくってくれます。山川海のつながりを感じる暮らしは幸せですね!」と、齊藤さんは目を輝かせる。
手仕事とデザインの力で山の保水力と水源を取り戻すプロジェクト
■里山に共通する林業の課題 子供たちが安心して住める町に
お店に入った瞬間、漂ってきたのは杉の香り。器たちを手に取ると、しっとり吸いつくような感触に頬がゆるみます。なめらかな手ざわりですごく軽い、杉の新しい価値を見出した器を見学。
デザイナーの廣瀬圭治さんが神山で目を向けたのは、一見緑豊かに見える山々が、実は衰えた人工林だという現実。
「ここ一帯の杉は、安価な輸入材の影響で需要が減り、放置されて過密状態に。山の保水力が低下し、神山の川の水も30年前の3分の1まで減ってしまいました」(廣瀬さん)
\なめらかな手触りですごく軽い/
次世代の水源に危機感を抱き、2013年に立ち上げたのが「しずくプロジェクト」。適切な伐採で杉を活用し、職人さんと唯一無二の器を生み出しています。
「始動時は、山の問題を個人の力で変えられるわけがないと反対されましたが、続けていくうち地域の意識が変わり、山の未来を考える風土が根づき始めました。住宅でも、地元の木を使うことが常識になりつつある。町をあげて神山杉の利用促進とブランド化も進められています」(廣瀬さん)
廣瀬さんは大阪から移住
やわらかくて加工するのが難しい杉を手で削り、年輪を活かした横縞模様の器に。若手職人の育成も行う。「田舎の人は生きる知恵と技術があってすごくかっこいい。でも、どこかで諦めがある。デザインの功績は、人の意識を変えて行動につなげること。諦めの湖に希望の〝しずく〟を一滴たらすように、いい波紋を広げていきたいです」(廣瀬さん)
欧州ビール文化を神山に! 町内外から人が集うブルワリー
■寛容さが生んだクラフトビール 乾杯で広がる地域の可能性
この日、最後の取材ということで、心おきなく乾杯して、一気に寛ぎモードに♪
マヌス・スウィーニーさんとパートナーのあべさやかさんが、神山にクラフトビール醸造所を開いたのは2018年。
「お遍路さんがめぐる地で、多様な人が化学反応を起こし、何事も『やったらええんちゃう?』という心意気がある。面白いコミュニティに助けられ、形になりました」(マヌスさん・あべさん)
地元農家さん(後出の白桃家)が代々継ぐ、神山在来種の生小麦を使用したビールも開発。キャンプ場や温泉に来る観光や視察のお客さんも集まり、地域に経済と情報の循環を生んでいるんだなと。それでいて生産量はむやみに増やさず、働く喜びや生活の質とのバランスを大事に。
「この場所で、風景を楽しみながら飲んでもらえたらベスト。畑を始め、季節ごとに変化する植物にビールのアイディアが湧いてきます。自分たちが心地いい規模で、おいしいビールをつくり続けたいです」(マヌスさん・あべさん)
ブルワリーの外壁やボトルラベルは、視覚芸術が専門のあべさん作。「神山アーティスト・イン・レジデンス」に参加したことを機に、アイルランド人のマヌスさんと共にオランダから拠点を移す。
中央のボトルは、70年以上種を受け継ぐ神山小麦を使った〝SHIWA SHIWA ALE〟。「しわしわいきよ」=ゆっくり、のんびりいこうを表す阿波弁から着想。
\神山育ちのヨモギや桜の葉が香る限定品も/
自分にも優しい生き方を見つける旅
SDGs連載のラストは、次世代につなぐ街づくりが注目される徳島県・神山町を訪ねました。よりよい暮らしを見つめ直し新たな発見を重ねたトラちゃんの旅は、いよいよ後半へと進みます。次回は、神山町で学んだ、地産地消の新しい取り組みや持続可能な暮らしを体感できる宿をご紹介。お楽しみに。