第152回直木賞を受賞した西加奈子さんの『サラバ!』を担当した、西さんのデビュー作からの担当者・小学館の石川和男さん。いちばん近くで見守っていた編集者による『サラバ!』誕生の舞台裏と、受賞にまつわるエピソードをお聞きしました。
★前回はコチラ→ 第一印象は最悪!? 直木賞作家・西 加奈子と『サラバ!』担当編集、出会い秘話
Woman Insight編集部(以下、WI) 前回のお話によると、西さんとはデビュー以来のおつきあいということですよね。
石川和男さん(以下、石) そうですね、だから『サラバ!』でちょうど10年になります。もちろん、ほかの作家さんと同じように、他社さんからもたくさんの作品を出されているので、10年ずっと一緒にいたわけではないですけど。
WI 『サラバ!』をやります、というお話は、いつくらいからあったんですか?
石 2010年の冬くらいに、西さんの家のそばでご飯食べてるときに、「作家生活10周年に長い作品を書くので、待っててください」と言われました。といっても、そのときはまだ、作家生活6、7年くらいなんですよ。だから今考えると、そのころからずっと、10周年の作品はこういうものを書こうと思ってくださっていたということですよね。
WI そんなに早くからなんですね。
石 頭の片隅にはあったみたいですが、実際書き始めたのは2013年の1月くらいかららしいです。『きいろいゾウ』が映画化されたとき、そのプロモーションで一緒に大阪を回っていて。そのときに、「書き出しの1行目が浮かんだんで、だんだん書いていきますよ」って話をされてました。それから途中経過の原稿を読ませてもらいつつ、2014年の初夏ごろに第一稿があがりました。そこから校正をずっとやりとりして、去年の10月下旬に出版、という感じでしたね。
WI 本ができるまでは順調でしたか?
石 作家さんによっていろんなタイプの方がいらっしゃるんですけど、西さんはまずは自分で書いてみる、というタイプの方です。プロットもつくらないので、とにかく書いて、途中で読ませてもらって感想を送る、というのを繰り返しましたね。細かいやりとりはたくさんしましたけど、『さくら』や『きいろいゾウ』ほど大きな直しの相談はしなかったです。
WI 今までとは違う何かを感じましたか。
石 やっぱり、ずっと書き続けてきたひとりの作家としての力を見せつけられた気がしましたね。なんというか、化け物のようになった西さんに圧倒され続けたというか。
WI 一緒にやっていて「これは賞をとるな」という気はされていましたか?
石 ノミネートの「ノ」の字もないときから、「賞を獲ったらどうしよう!」と勝手に妄想してましたね(笑)。「こんなに盛り上がってて、候補にもならんかったらどうする!?」とか(笑)。それは冗談ですけど、それくらいすごい手応えがありました。書店さんへプロモーション用に配る「プルーフ本」というのがあるんですけど、そこに、なんのてらいもなく「これ以上の作品に出会える気がまったくしません」って書いてしまったほどでした。編集者として、思わずそう書かずにはいられない、強い「実感」のようなものがありました。