おうち時間がふえた2020年。これまでよりスキンケアを丁寧にしてみたり、セルフマッサージを始めてみたりと、自分磨きの時間をとるようになったという方も多いはず。一方で「爪」に関しては、日常生活で目に入ることが多いにもかかわらず、適切なケア方法を知っているという方は少ないのではないでしょうか。
そこで今回は、「爪を美しくするお手入れ方法」について、これまで1万人を超える人の爪を美しくしてきた育爪サロン「ラメリック」の代表・嶋田美津惠さんにお話をうかがいました。
そもそも、自分の爪の形って変えられるの?
自分の爪の形がそんなに好きではなかったときに「爪の形は生まれつきだから変えられない」「遺伝だからしょうがない」と諦めていませんか? 実はこの考えは大きな間違いで、爪の形はケアをすることで変えられるんです。
たとえば嶋田さんのサロンに通った方はこのように変わっています。
素の爪が美しいと、上品な印象を受けますよね。
しっかりお手入れを続けていくと、爪先まで透明なクリアネイルになり、クリスタルのような輝きを放ちます。嶋田さんが提唱するのは素の爪をキレイに育てて、美しく上品な印象にしていく「育爪(いくづめ)」。育爪メソッドを実践することによって、誰でも美しい爪になることができると嶋田さんは断言します。
爪を美しくするためには、どうしたらいいの?
爪には「先端の白い部分」と「根元から伸びているピンクの部分」がありますが、美しい爪の形を作るにはピンクの部分を伸ばす必要があります。
今の爪が短いからといって諦める必要はなし。白い部分を2〜5mm程度残して爪を伸ばしていくうちに、ピンクの部分も伸びていきます。
ピンクの部分をきれいに長くするためには「爪の整え方」「爪を当てない指使い」「オイルを使った保湿」の3つのポイントが重要です。ひとつひとつ見ていきましょう。
【1】爪の整え方
普段爪を整える際によく使うアイテムといえば、爪切りですよね。簡単に切れて便利ではありますが、爪にダメージを与えてしまうものが多いため、美しい爪を育てたい場合は一度使用を控えるのがおすすめ。
使いたいのは爪用の紙やすり。時間はかかりますが、爪への負担を減らすことができます。
爪の形は「アークスクエア」という形に整えましょう。「アークスクエア」とは、平面的で角が90度の「スクエアオフ」や全体的に丸い「ラウンド」とは異なり、緩やかな楕円形のカーブを描く爪の形のこと。
アークスクエアにすることで
・爪がダメージを受けにくくなる
・平たい爪でもキレイで立体的な爪に見せることができる
・ピンクの部分が爪先の左右両端まで伸びやすくなる
と、いいこと尽くめ。
【2】爪を当てない指使い
爪のピンク部分を伸ばすときに一番大切なことは、指の使い方です。
ポイントはふたつあり、ひとつは「爪を当てない指の使い方をする」こと。
例えば、電気のスイッチを押すときに指の先で押すのではなく指の関節で押す、布団をしまうときにわしづかみにするのではなく、布団の下に手のひらと腕を差し込んで運ぶなどなど…。ちょっとした工夫で爪を当てない指使いをすることができます。
注意すべきは、布などの柔らかいものを扱うとき。「柔らかいから大丈夫!」と思っていると、かなり危険なんです。例えば、洗濯機から洗濯物を取り出す際、中で洋服同士が絡まってお団子のようになっている場合、ついうっかり一気に片手で取ってしまいがちです。しかしこれが無意識のうちに爪に負担をかけてしまっています。洗濯機の中で指の腹を使って洋服をバラしてから、少しずつ取り出すようにしましょう。
そしてもうひとつは、「爪を道具にしない」こと。缶コーヒーのプルタブを開けるときやシールをはがすとき、みかんの皮をむくときなど、爪を道具にしてしまう習慣はかなり多くあります。しかし、これは爪に負担をかけてしまい、せっかく伸ばした爪のピンク部分がはがれてしまう原因にも…。
コインを使ってプルタブを開けたり、箸を使ってみかんの皮をむいたりするなど、道具をうまく使うとピンク部分がはがれるのを防ぐことが出来ます。
【3】オイルを使った保湿
実は、爪トラブルの原因のほとんどは「乾燥」によるもの。オイルを使用して保湿をすることで、乾燥を防いで見た目が美しくなる上、弾力が出て丈夫になり、割れにくくなります。
塗る回数は、1日5回以上、爪の先まで透明なクリアネイルを目指す場合は7回以上が良いと嶋田さんは語ります。
▼効果的なオイルの塗り方
用意するもの:オイル、水を入れたドロップ容器
1.指先を上に向けて、爪の裏側と指の間にオイルを垂らす(指の上から左右にオイルが流れるくらいの量が目安)。両手の指すべてにオイルをつける。
2.指先を上にしたまま手の甲を自分に向ける。爪の左右両側の指との境目にオイルが流れ落ち、甘皮部分にたまっていくのを確認する。
3.両手の指先をよくもむようにすりあわせ、すべての指の甘皮と爪表面・裏側にオイルを塗り込み行き渡らせる。
4.片方の手のひらに、1円玉くらいの大きさに水をたらす。
5.反対側の手の指先で、指についたオイルと水を混ぜ合わせる。(水の中に細かい粒子となったオイルが分散し、水とオイルが混ざり合うことを「乳化」と呼びます)
6.乳化したオイルを手の甲など手全体にも塗り込み、なじませる。(オイルは乳化させることでより浸透しやすくなり、保湿力も高まって、より長く乾燥を防ぎます)
7.両手の指と指を交差させて、指の間までしっかりオイルを塗り込む。乳化させたオイルはよく浸透するためベタつきが少なくなるものの、気になる場合はティッシュを軽く当てる。
▼オイルはどんなタイミングで塗れば良いの?
絶対にこのタイミングじゃないといけない…というような決まりはなく、基本的にはいつでもOKですが、いつ塗るかを決めておくと習慣化しやすくなります。
おすすめは食事前。毎日絶対に存在する「食事前」のタイミングでオイルを塗ると自然と習慣になりやすい上に、もしオイルがお箸や食器についてしまっても簡単に洗えるのでおすすめです(逆に、家を出る直前などはお気に入りのコートやバッグがオイルでベタベタになってしまう可能性もあるのでご注意を)。
そこに「朝起きてすぐ」と「夜お風呂から出たとき」を足せば1日5回。さらに「寝る前」と「お茶を飲むタイミング」も追加すれば、7回塗ることができます。
一度保湿されている心地よい状態を体で覚えて習慣になってしまえば、乾燥してくるとすぐに気づいてオイルで保湿したくなるもの。
とはいえ「〇時間おきに塗らないといけない」というルールは一切ないため、日中こまめにオイルを塗ることが難しい、忘れてしまいそう…という方は、1時間テレビを見ながらCMの度にオイルを塗る…という方法でもOKです。実際、嶋田さんのお客さんの中には「日中はどうしてもオイルを塗ることができない生活なので、テレビを見ている1時間の中で何度もオイルを塗る」という生活をしているうちに、すっぴん爪のまま透明なクリアネイルになった方もいるとのこと。
▼オイルはどんなものを使ったら良いの?
香料や防腐剤が入っていることが多いハケやロールオンタイプのネイルオイルよりも、キッチンにある食用のごま油や亜麻仁油がおすすめとのこと。(※どんな植物油も人によってアレルギー反応が出る場合があるので、腕の目立たない部分などに少量塗ってみて、異常や違和感がないか事前に確認してください)
嶋田さんがおすすめする基準は以下の通り。
1.遺伝子組み換えでない原料を使用している
2.有機栽培or無農薬栽培
3.ブレンドしていない単一オイル
4.低温で圧搾している
5.価格が安すぎない
たとえばごま油の場合いろいろな種類がありますが、ロースト(焙煎)してあって強い香りがあるものよりも、ローストしておらず匂いがない「低温圧搾」と書いてあるものがおすすめ。
食用オイルはなんとなく抵抗がある…という場合は「オーガニックで単一素材」「ハケなど直接爪に当てるものではなく、スポイトなどで爪に触れずに使えるもの」が良いとのこと。ネイルオイルかどうかにこだわる必要はなく、オーガニック製品を扱うお店などで顔や体用として売られている美容オイルまで範囲を広げて探してみると良いものが見つかるそうです。
▼オイルで保湿するときのポイントは?
オイルで保湿をする際には、オイルを塗ったあとに水をたらし、オイルと水が混ざりあった状態に乳化させて保湿をしましょう。あまりにも爪が乾燥していると、油だけを入れても浸透しません。特に冬は空気中に水分がなく乾燥しているので、水分を足して乳化させることでグッと保湿効果が高まります。
ちょっと面倒くさいという場合は、手を洗った後すぐにタオルで拭かず、オイルをつけるという流れもおすすめ。
反対に、夏は湿気があるので必ずしも乳化させる必要はなく、オイルのみでも大丈夫なことも。
ただ、最近は感染症対策で手の消毒にアルコールを使用することが多いため、手や爪から水分が奪われがち。そういったときはきちんと乳化させて手全体に塗り伸ばすことで手荒れを防ぐことができ、手も爪も同時に美しくなります。
忙しくて全部できるか不安…。どれを優先的にやったら良いの?
どんなに忙しくても「爪を当てない指使い」と「オイルで保湿」
一番重要なのは「爪を当てない指使い」です。ピンクの部分に直接関わってくるのが指使いなので、これには特に意識を向けてみてください。先ほど挙げた洗濯物を取り出すときのほかにも、タイツや着圧ソックスを履くときに圧力をかけてしまう、布団をぎゅっと引っぱってしまうなど、「布」に対しては油断しやすいポイントなので意識して。
ちなみに、パソコンのキーボードに関してはあまり関係がなく、今までタイピングが原因でピンクの部分がはがれてしまったという話はお客様から聞いたことがないとのこと。すごく強い力で打つ、ということをしなければ基本的には大丈夫なので、お仕事で毎日パソコンを使う方もご安心ください。
爪に弾力を出し丈夫にしてくれるオイルも、育爪をする上では絶対におさえておきたいポイント。爪を伸ばしているとき「何かにぶつけてしまうと爪が折れてしまう…」と悩んでいる方も多いかと思いますが、オイルを塗ることで丈夫になり、折れにくくなります。爪をきれいに伸ばすために、オイルは欠かせない存在。日中なかなか塗る時間がないという場合でも、先ほどの通り「夜に集中的にたくさん塗る」でもOK。
ネイルってしても大丈夫?
ジェルネイルやネイルカラーは爪をプラスチックで覆ってしまい、爪の下にある皮膚から出ている水蒸気が爪表面から揮発するのを妨げてしまうことになるため、育爪期間にはあまりおすすめしていません。ベースコートやトップコートなどの透明なコート剤も同じ理由でおすすめしていません。3層構造になっている爪の一番上の層を乾燥させ、逆に一番下の層は逃げ場を失った水蒸気で水分過多になってしまいます。
ただ「どうしてもネイルがしたい!」というときや「お仕事の都合でネイルをしないといけない」という場合は、ジェルネイルではなくネイルカラーにして塗った当日or翌日には落とすのがベスト。もしくはネイルカラーを2〜4日続けたら、次の1日は素の爪に戻してオイルを1日5回以上塗ってしっかりと保湿してください。この方法であれば、ネイルカラーを楽しみたい方も、仕事上しなければならない方も素の爪をキレイに育てることができます。
これからの季節、特に注意したいことは?
最近は手の消毒でアルコールを使用する機会が多く乾燥しやすいため、例年と同じケアをしていると手が荒れてしまう可能性が高いです。先ほどのオイルの項目であった通り「オイルを水で乳化させて塗ること」で、爪も肌もケアすることができるので、意識的に行いましょう。
また、摩擦で手荒れをしてしまうのを防ぐため、お湯や洗剤を使うときや雑巾を絞るときには必ずゴム手袋を使用するようにしてください。特にこれからの季節は、大掃除や引っ越しをする方もいらっしゃいますよね。新聞紙をまとめる、衣替えをするなどの作業も手荒れの原因になるため、手袋を使用するのがおすすめです。
手袋をして寝るのは効果がある?
手袋は摩擦によって手肌や爪から水分と油分が奪われるのを防ぐことが目的なので、何もさわることがなく摩擦が生じない就寝中は手袋をする必要はありません。もちろん手袋をして寝ても大丈夫ですが、それよりも起きている間にオイルを何回も塗ったり、書類や衣類など、紙や布を扱うときに手袋をして摩擦を避けたりしたほうが育爪の効果は高まります。
足の爪をキレイに伸ばしたいときも、白い部分は2〜5mmくらいあったほうがいいの?
足の爪は手の爪と違い、爪の白い部分が2〜5mmの範囲とは言い切れません。ピンク部分が指先までくっついていない場合は白い部分が5mmあっても大丈夫です。爪が指先より長くならないので、靴に当たって爪が割れる心配がありません。逆にピンク部分が指先までついている場合は、靴に当たらないために、爪の白い部分は1〜2mmがおすすめです。
ピアノやギターなど、楽器をやっている人でも育爪できる?
もちろんOK。サロンには、日常的にギターやウクレレをやっている方はもちろん、ピアノ教室の先生も通っているとのこと。普通にピアノやギターを弾くぶんには問題なく、むしろ日常生活のほうがピンクの部分がはがれてしまう動作が多いです。
普段の生活で爪を当てない指使いをしていると、楽器を弾くときにも自然と爪が当たらない弾き方になるようです。
育爪をする上で大切なことは?
「諦めないこと」です。
育爪には、時間がかかります。爪が自然に伸びていくのを待たなければならないので、気長にコツコツ続けることが重要になります。
髪が毎日どのくらい伸びているかわからないように、爪も毎日少しずつ伸びていくので、変化がわかりづらく、本当に効果が出ているか不安になることもあるかと思います。
そのためモチベーションをキープするために、爪の写真を1か月に1度など、定期的に撮っておくことをおすすめしています。後から見返すことで、ご自身の爪の変化を感じることができます。
「爪を当てない指使い」も3ヵ月くらい続けると習慣になります。最初は難しかった自転車が、回数を重ねるごとにコツをつかんで習慣になるのと同じ。育爪も最初の3ヵ月くらいは諦めそうになることもあるかと思いますが、休み休みでも続けていけば、オイルを塗ったり「爪を当てない指使い」が無意識にできるようになっていきます。
育爪はやったぶんだけ必ず効果が出ます。始める年齢も関係ありません。サロンには62歳から通って現在87歳のお客様もおり、80代とは思えないほどキレイな爪をされています。諦めなければ誰でも爪はきれいにできるし、サロンに行かずとも「爪の整え方」「爪を当てない指使い」「オイルを使った保湿」を意識するだけでご自身でアンチエイジングをすることができます。
ぜひ諦めずに、美しい爪を目指してください!
▼育爪について詳しくはこちらもチェック
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嶋田美津惠さん
育爪スタイリスト。育爪サロン「ラメリック」代表。
素の爪を育てる「育爪サロン」を大阪と東京で2店舗経営し、2021年で開業から29年目を迎える。爪を飾る必要すら感じないほど美しくなり、かつ維持するのもラクとリピーターが殺到し、自由が丘店の土日の新規客は2年待ちの状態。これまでに施術してきた人数は1万人を優に超える。著書に『育爪のススメ』(マガジンハウス)、『女は爪で美人になる』(SB Creative)。
育爪サロン「ラメリック」公式サイト https://ikuzume.jp/