かが屋・加賀翔さん×『BLUE GIANT』スペシャルインタビュー!

かが屋・加賀翔さん|『BLUE GIANT』と出会っていなければ、今ここにいなかったかも

2月28日に今年アニメ映画が公開予定の『BLUE GIANT EXPLORER』の第5集が発売されます。発売を記念し、以前から本作のファンだったという「かが屋」の加賀翔さんにインタビューを実施しました。

■『BLUE GIANT』4巻までは主人公の宮本大(ミヤモトダイ)にムカついていた

――加賀さんはどのようにして『BLUE GIANT』シリーズを知ったんですか?

連載が始まってしばらく経ったころだったと思うんですけど、当時僕はコンビニで働いていて、店に置いてあるビッグコミックの表紙で『BLUE GIANT』というタイトルは目にしていたものの、読んではいなくて。その後、今度は夜勤のバイトをしていたとき、当日に「今日は早上がりでいいよ」と言われた日があって、始発までマンガ喫茶で時間を潰そうと思ってたまたま入った店に、スタッフのオススメとして『BLUE GIANT』が5巻まで並んでいたんです。気になってはいたので「5巻ならすぐに読み終わるだろう」と手に取ってみたら、ムカつきましたね。

――ムカつきましたか。

4巻までは爽やか熱血サックス高校生の宮本大(ミヤモトダイ)がひたすらがんばる物語で、もちろん面白いんですけど、あまりにもまっすぐすぎて「なんやこいつ?」と。でも5巻で、それまでは地元の仙台でサックスを吹いていた、井の中の蛙だった大が、東京で自分より知識も経験も場数も上なピアニストの沢辺雪祈(サワベユキノリ)と出会う。その雪祈から「オレと組もうぜ」ただし「ヘタなら、即クビね」と言われちゃったから、僕は「え、大丈夫なの?」って。

――大にムカついてはいたけれど。

もう、心配で心配で。だけど実際に大のサックスを聴いた雪祈は、泣いてしまう。それはピアノ歴14年の雪祈が、サックス歴3年の大の演奏を聴いて、その3年間の努力の底知れなさに感動したからなんですけど、そこで僕も雪祈と同じように完全に突き抜かれちゃって。すぐさま5巻まで買って、以降も新刊が出たら買っては泣くというのを繰り返しています。

――ちなみに、マンガ自体は普段から読まれているんですか?

日常的に読んではいて、『ONE PIECE』や『僕のヒーローアカデミア』も大好きなんですけど、僕の中で特別な意味合いを持っているマンガがふたつあって。ひとつが『BLUE GIANT』で、もうひとつは松本大洋さんの『Sunny』なんですよ。

――どちらも小学館のマンガですね。

たまたまです!(笑)

――その2作品には、加賀さんの中で何か共通点があるんですか?

いや、どちらも僕の人生観に影響を与えているという点では共通しているんですけど、具体的にどこが似ているとか、そういうのはなくて。『Sunny』は、親から離れて「星の子学園」という児童養護施設に暮らす子供たちの話なんです。僕は子供の頃、家族の問題を抱えていたというか、要はあまり幸せな子供時代を送ってこられなかったんです。だから、もし自分が親になったら子供には自分と同じ思いはさせたくないし、自分の子供じゃなくても何か支援できることはないかとか調べたり、児童福祉関係の本を読んだりしていて。その中で、『Sunny』で描かれていることは、もちろんいいことばかりではないんですけど、知っておくべきことが詰まっていると感じたんです。

■『BLUE GIANT』がなかったら、今ここにいなかったかも

――では、『BLUE GIANT』からどんな影響を?

まず、大は主人公としてイカつすぎるというか規格外なので、ああはなれません。だからロールモデルとしては悪いロールモデルなんですよ。

――悪いロールモデル(笑)。

でも「こんなにがんばらなきゃいけないの!?」みたいな部分では触発されましたね。例えば大が毎日サックスの練習をしていたように、僕も毎日コントを書いていた時期があって、そのときは月に100本書いたんですよ。それぐらい焦っていたというか、当時、僕には25歳までにライブとかでお金を稼げなかったらお笑いを辞めなきゃいけないという個人的な事情があって、その期限が迫っていたんです。でも、まだテレビ出演はおろかライブもうまくいかなくて。2017年3月のある日、新宿でライブがあった帰りに、そのまま電車に乗るのが嫌で新宿駅の構内をうろうろしていたら、遠くに『BLUE GIANT SUPREME』の壁面広告が見えたんです。

https://natalie.mu/comic/news/224690

――おおー。『BLUE GIANT SUPREME』といえば『BLUE GIANT』のヨーロッパ編ですね。

写真を撮ろうかなと思ったんですけど、いったんその場を離れたんですよ。近付いて大たちの顔を見るのが怖くなっちゃって。

――だいぶ重症ですね。

でも、やっぱり見ておいたほうがいいと思って近くまで行ったら、壁にカセットテープがいっぱい貼り付けてあって「ご自由にお持ち帰りください」と。いわゆるピールオフ広告だったんですけど、そこから引っ剥がしたカセットのA面に、大が「とにかく聴いてみてくれ!!」と言っているイラストが描いてあって。それを見て、なんかもうよくわからない感情になって「俺! マジでがんばろう!」みたいな。そこで奮い立ったことが今につながっているというか。もちろん相方の賀屋(壮也)もがんばってくれたおかげなんですけど、もし『BLUE GIANT』がなかったら、今ここにいなかったかもしれないです。

■そういえば大はまだ童貞だった

――このたびアメリカ編『BLUE GIANT EXPLORER』の第5巻が発売されますが、加賀さんは今後の展開にどんなことを期待しますか?

『EXPLORER』で、大はシアトルからアメリカ西海岸を車で南下して、4巻でロサンゼルスに到達するんですけど、そこではスムーズでイージーなジャズが主流で、大がやっているような激しいジャズはハマらない。それに大自身が気付いて「スムーズな音を好むこの街の全員を、感動させるのは無理――」だと、つまり自分の音楽は万人に刺さるものではないけれど「最高に感動してくれる人が、1人でもいれば――!!」と、おそらく初めて考え方を変えるんですよね。

――なるほど。

僕も芸人として、全員に笑ってもらいたいというのは大前提としてあるんです。と同時に、それが本当に難しいということも身に染みてわかっていて。でも、大の演奏に感動した“1人”でもあるコロンビア人のダンサーが、「まだまだ、頑張らなくちゃって思ったよ」と言う大に対して「頑張ってるじゃないですか、とても」「大丈夫、神様が見ている」と。

――本当にね、誰がどう見ても大はがんばっていますからね。

そう言われた大は「ちょっとトイレに行ってくる」と席を外して、手洗い場の前で泣くんですよね。ここで僕は「泣くんだ!?」とびっくりして。今までずっと突っ張って、強い面ばかり見せてきたけど、めちゃめちゃ不安だったと思うんですよ……そういえばまだ童貞だし。

――それはそう。

そこも面白いというか、どんなにシリアスにキメていても、大はチューすらしたことがない。そんな純粋な大がLAで、ある意味で1回心を折られて、さらなる成長が見られるんじゃないかと、かなりテンションが上がっています。
そしてこれは難しいかもしれないんですけど、とりあえず大は1回、ちゃんと女性と交際してほしい。

――そこなんですね。

マジで変わるから!

加賀翔(カガショウ)
1993年5月16日生まれ、岡山県出身。2015年、バイト先で知り合った賀屋壮也とお笑いコンビ・かが屋を結成する。2018年に「キングオブコント2018」で準決勝に進出して注目を集め、2019年に初の冠ラジオ番組「かが屋の鶴の間」がレギュラー化。2019年には「キングオブコント2019」の決勝に進出した。現在はテレビ神奈川にて毎週木曜24時30分より「かがやけ!ミラクルボーイズ」が放送中。また個人の活動として、2021年には初の小説「おおあんごう」を講談社から上梓した。
BLUE GIANT
2013年から石塚真一が「ビッグコミック」(小学館)に連載。
世界一のジャズプレーヤーを目指す青年・宮本 大(ミヤモトダイ)を中心とした成長物語。
コミックスは日本編『BLUE GIANT』全10巻、ヨーロッパ編『BLUE GIANT SUPREME』全11巻、アメリカ編『BLUE GIANT EXPLORER』既刊5巻(以下続刊)で800万部を突破(『BLUE GIANT SUPREME』と『BLUE GIANT EXPLORER』はstory director NUMBER 8との共作)。
マンガ大賞2016第3位の他、第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門 大賞および第62回小学館漫画賞(一般向け部門)など受賞多数。
世界最古のジャズレーベル「BLUE NOTE RECORDS」とのコラボレーション・コンピ・アルバムの発売や、ブルーノート東京でのライブイベント「BLUE GIANT NIGHTS」の開催、Spotify とのコラボ・プレイリストの公開など、現実のジャズシーンにも影響を与えている。
2022年アニメ映画公開予定。
https://bluegiant.jp/
取材協力/コミックナタリー 取材・文/須藤輝 撮影/ヨシダヤスシ