美容ジャーナリストとしてカリスマ的人気を誇る天野佳代子さんが、ご自身の経験を元にCanCam世代のもやもやしたお悩みにキッパリ明快、そして愛情たっぷりにお答えいただく連載「モヤってる羊たちへ 晴れ間はこっち」。
「奇跡の67歳」というキャッチコピーで知られる天野さんは、常に美しさをアップデートし続けているひと。と同時に、深い美容の知識を武器にキャリアを切り拓き続けてきた、働く女性としての大先輩でもあります。そんな天野さん、実は美容ライターとしてデビューしたての20代の頃、雑誌『CanCam』でお仕事されていたというご縁も。天野さんからCanCam世代へ、心に響く金言をこれからたっぷりお届けしていきます。
第1回目は、いまや若い世代の関心事としてもトップレベルの注目を集める「美容施術」について、天野さん視点でお答えいただきました。
続く第2回は「30代になるまでに経験しておいたほうがいいこと」について。天野さん自身の20代を振り返りながら、日々お仕事に、人生に向き合う姿勢を教えてくださいました。
「苦手から逃げない」ことで、見えてくる世界
【今回のお悩み】
30代になるまでにしておいたほうがいい経験はなんですか? また、天野さんおすすめの本があったらおしえてください。(25歳・会社員)
「30代までにしておいたほうがいい経験はなんですか」と問われたら、法に触れること、人を傷つけること、自分を傷つけること以外なら「なんでも」とお答えしたいです。逆に言えば、人生において「これはやるべきではなかった」と思えることなんて何ひとつとしてなかったと、ひと通り経験してきた上でそう思うからです。
それでも20代の頃は、「しておいたほうがいい」と思える事柄が目の前にあったとしても、タイミングやら環境やら状況やらが足かせになって、なかなか踏み込めないことが多かったと記憶しています。反して「やらなくてもいい」と思えるような事柄ばかりで、疑問を抱きながらもやるはめになっていました。このあたり、社会に出て間もない『CanCam』読者の皆さんにも共感いただけると思います。
ただ振り返って思うのは、あのとき「やらなくていい」と思いながらもなんとかやり遂げたことの数々が、私の血となり肉となって、大人へと成長させたと思っています。
ちょっとだけ具体例を挙げます。私が20代前半の駆け出しライターの頃は、雑誌社や新聞社からあらゆる仕事をふられてきました。「一輪車をマスターする企画」「カヌーに挑戦企画」「早稲田の学生が行列を作るラーメン屋に密着企画」「成田空港、帰国者のお土産見せて見せて企画」などなど、こうやって書くと実に面白そうな仕事です。しかし、当時は私自身も長文が書けるライターになりたいという理想像が明確にあったので、ふられるすべての仕事が遠回りをしているようで、「そんなことやりたくない」と泣きたくなる思いでこなしていく毎日でした。
なんとか踏ん張って現場で取材をしてきても、編集長やデスクからはダメだしを食らってばかり。撮影のカット数が足りない、どうしてこっちの角度からの写真を撮ってこないなどなど、要は現場判断の甘さをさんざん突っ込まれていました。もう1回現場へ戻って撮ってこいという、ライターにとってはなんとしてでも避けたい“再撮”も日常茶飯事。
でも今思うと、あのときの経験のひとつひとつによって、ライターのスキル、現場での対応力、気力と体力、そして仕事人としての覚悟が少しずつ出来上がっていったように思います。厳しさに育てられたと言っても過言ではないです。でも、今はあの頃と時代が違います。
最近、80年代や90年代にオンエアされていたテレビドラマが、よく再放送されています。ご覧になった方は、驚くことばかりなのではないでしょうか。当時のドラマは今のようにコンプライアンスなんてなかった時代なので、ご無体と思えるような場面の連続。その時代を経験してきた私でさえも「それはない」と画面に向かって警鐘を鳴らしたくなります。
狭い部屋の中で男性の上司が煙草を黙々と吸って、その隣でけむたそうな顔もせずに平然と仕事をしている女性の部下達。「女のくせに」の考えが男性のベースにあるから、女性は男性から常に軽んじられている。そんなシーンの数々が当時は問題にもならずに放送されていたわけで、視聴者も違和感なく鑑賞できていたのは、ドラマはリアルな日常をなぞっていただけで、今はコンプラ違反であるシーンでさえも、当時の視聴者は“普通のこと”として受け入れられていたのですね。
私に関して言えば、昔のドラマに見られるような、そこまでひどい扱いを受けてはいませんでしたが、指導の延長で、自尊心を傷つけられるような言動を浴びせられることはよくありました。
今はコンプライアンス厳守で、上の人が下の人を怒るとか叱るとか以前に、指導法さえも細心の注意が必要。会社によっては、上司から振られた案件を新人さえも拒否できると聞きました。自分がやりたい仕事、得意な仕事を中心に、やりたくないことは避けて通れる時代なんだなと思います。もちろん、日本全国の会社がそうだとは言いません。厳しい環境や言動に耐えながら仕事をしている若者だってたくさんいます。ただ、コンプライアンスのために、「優しい」世の中になっているのは確かでしょう。
だから人が育ちにくい時代になったとも言われます。傷つかないような遠回しの注意や説教などの、真綿でくるんだような指導法は、感受性が豊かな人なら察することができても、多くの人にはなかなか響きづらい。他者が抱く自分への評価がわからないまま、また同じことを繰り返す。「優しい」と書きましたが、見方を変えると今の若者にとって、昔に比べると成長しづらい世の中になってしまったとも言えるのです。
自身の成長のためにも、さあ上司に怒られに行きなさい、厳しい言葉をもらいなさい…。と言いたいわけでは決してありません。
コンプライアンスに守られた若者がすべきことは、「やりたい仕事」「得意な仕事」ばかりではなく、「やりたくない仕事」「苦手な仕事」も断らずにやることです。やりたくないことを全うさせるために、人は乗り切ろうとする知恵が働きます。知恵はどんどん膨らんで新たなスキルとなります。気づけば心には筋肉がつき、逞しく成長して、へこたれない精神性が育ちます。
反して「やりたい仕事」「得意な仕事」ばかりやっていると、先行きが見える分、知恵も体力も必要としないから、心に脂肪がつき始めます。心の脂肪は甘える思考を生み出し、すぐにキレる、すぐに落ち込むという、耐性の効かない人間が出来上がってしまいます。
まだまだ人として成長過程にあるCanCam読者の皆様に伝えたい「30代までにしておいたほうがいい経験」とは、「なんでも経験すること」であり、「苦手から逃げない」こと。これを私からのアドバイスとさせてください。ただし、世の中にはいろんなメンタルの方がいるのも知っています。「やりたくないこと」でしんどくなったら素直に下りて、新しいことを探すのも大切なこと。
最後に私が皆様にお勧めしたい本は、ジェーン・スーさん著の『闘いの庭 彼女がそこにいる理由』です。現在活躍中の、皆さんもよく御存知の著名な女性13人のインタビューを元に綴ったエッセイ集で、端から見ると順風満帆に成功への道を歩まれたかのように見える女性たちも、想像を絶する苦悩を重ねてきていることがわかります。悲しみ、怒り、理解されない悔しさなどを経ながら、そこから逃げずにどうやって心の筋肉をつけ、逞しくしなやかに育てていったのかが詳細に描かれています。
これから人生を渡っていこうとしている皆さんの、生き方の指南書にもなり得ますので、機会があればぜひご一読してみてください。(天野佳代子)
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