『もう二度と食べることのない果実の味を』第21話
「テスト、どうだった?」
訊ねると、土屋くんはうつむいたまま首を横に振った。
「……わたしも」
おにぎりは乾いていて、つめたかった。硬い芯ののこった米粒をぷつぷつと噛みつぶしながら、わたしは呟いた。
「このままどんどん成績が落ちていったら、どうしよう」
「家族に怒られる?」
首を横に振る。両親は、面と向かってわたしを怒鳴ったりはしないだろう。ただ、しずかに失望するだけだ。声を荒らげられるより、その方がずっとつらかった。
この先わたしは、どうなってしまうんだろう。まるで体の奥に、ぽっかりとおおきな穴があいたような気分だった。先の見通せない、真っ暗な穴。虫食いのように、穴の輪郭はじわじわと拡がって、わたしを蝕んでゆく。逃げたくとも、逃げられない。穴は、わたし自身のなかにひらいているのだから。
それでも。ひとつだけ、方法がある。
この世界から、自分自身から、逃げるための方法。
「ねえ、土屋くん」
食べかけのおにぎりを脇に置いて、わたしは言った。
「しよう」
土屋くんが、ぎょっとしたように目を見ひらく。
「え? ここで?」
「うん」
「いま?」
「うん」
まだ何か続けようとする彼の襟を掴んで、引き寄せる。首筋に噛みつくと、土屋くんはちいさく声をあげた。青く浮いた血管を舌で辿り、耳朶を舐める。舌をうごかしながら、わたしはそっと周りを見わたした。いくら人気がない場所だといっても、ここは校舎だ。腕時計をみると、昼休みが終わるまであと二十分だった。
時間と場所を意識したとたん、心臓の鼓動が速くなった。あわせるように、土屋くんの息が乱れてゆく。
堪えかねたように、土屋くんが身をよじる。わたしは強引に彼にくちづけた。いつもより性急で、荒っぽいキス。ぬるい舌は、甘ったるいカスタードクリームの味がした。舌を絡ませながら土屋くんの制服をむしるように脱がせ、セーラー服をまくりあげる。
外気にさらされた乳房の先端が、たちまち硬くこごってゆく。
「舐めて」