『もう二度と食べることのない果実の味を』第21話

17歳で「女による女のためのR-18文学賞」で鮮烈なデビューを飾った作家・雛倉さりえさんの最新作『もう二度と食べることのない果実の味を』(通称:たべかじ)が4月16日に刊行されました。CanCam.jpでは大型試し読み連載を配信。危険な遊びへ身を投じたふたりの運命、そして待ち受ける結末とは……。

「たべかじ」連載一覧

『もう二度と食べることのない果実の味を』第21話


もう二度と食べることのない果実の味を

「テスト、どうだった?」

 訊ねると、土屋くんはうつむいたまま首を横に振った。

「……わたしも」

 おにぎりは乾いていて、つめたかった。硬い芯ののこった米粒をぷつぷつと噛みつぶしながら、わたしは呟いた。

「このままどんどん成績が落ちていったら、どうしよう」
「家族に怒られる?」

 首を横に振る。両親は、面と向かってわたしを怒鳴ったりはしないだろう。ただ、しずかに失望するだけだ。声を荒らげられるより、その方がずっとつらかった。

 この先わたしは、どうなってしまうんだろう。まるで体の奥に、ぽっかりとおおきな穴があいたような気分だった。先の見通せない、真っ暗な穴。虫食いのように、穴の輪郭はじわじわと拡がって、わたしを蝕んでゆく。逃げたくとも、逃げられない。穴は、わたし自身のなかにひらいているのだから。

 それでも。ひとつだけ、方法がある。

 この世界から、自分自身から、逃げるための方法。

「ねえ、土屋くん」

 食べかけのおにぎりを脇に置いて、わたしは言った。

「しよう」

 土屋くんが、ぎょっとしたように目を見ひらく。

「え? ここで?」
「うん」
「いま?」
「うん」

 まだ何か続けようとする彼の襟を掴んで、引き寄せる。首筋に噛みつくと、土屋くんはちいさく声をあげた。青く浮いた血管を舌で辿り、耳朶を舐める。舌をうごかしながら、わたしはそっと周りを見わたした。いくら人気がない場所だといっても、ここは校舎だ。腕時計をみると、昼休みが終わるまであと二十分だった。

 時間と場所を意識したとたん、心臓の鼓動が速くなった。あわせるように、土屋くんの息が乱れてゆく。

 堪えかねたように、土屋くんが身をよじる。わたしは強引に彼にくちづけた。いつもより性急で、荒っぽいキス。ぬるい舌は、甘ったるいカスタードクリームの味がした。舌を絡ませながら土屋くんの制服をむしるように脱がせ、セーラー服をまくりあげる。

 外気にさらされた乳房の先端が、たちまち硬くこごってゆく。

「舐めて」