『もう二度と食べることのない果実の味を』第3話
翌日の体育は、男子と女子に分かれての持久走だった。
先に計測を終え、グラウンドの上で列をつくって坐る女子の目の前を、男の子たちが土埃をあげていきおいよく駆けてゆく。夏の真昼の陽ざしをうけて、体操着から伸びた脚がまぶしくひかっている。
「うわ、裕也ぶっちぎりじゃん。さすが陸上」
「中上も負けてないよ。ほら、もう追い越しそう」
運動部の男子が走ってゆくたびに、佐藤さんやその周りの子たちの歓声が高くひびく。
わたしのとなりでは、由佳子が雑草をむしっていた。こまかな石や砂を割ってのびる、萎びかけた黄色い茎。ゆびを伸ばしてつまんでみると、ぷつ、とかすかな音をたてて、あっけなくちぎれた。
由佳子が、ぼそりとつぶやく。
「なんでこの暑い中、わざわざ走んないといけないの。ほんと、はやく夏休みになってほしい」
「あと一週間でおわりだよ」
「そうだっけ。まあ、休みに入ったら受験勉強しないといけないし。どっちもどっちだよね」
そのとき、ひときわ大きな歓声がきこえた。顔をあげると、バスケ部の濱くんが走りぬけてゆくところだった。
濱淳生くん。クラスでいちばん身長が高く、顔つきも精悍で整っている。笑い声が派手で、よく自習中に隣の教室の先生から怒られていた。部活動で走り込みでもしているのか、ひきしまった腕と脚は飴色にうつくしく日焼けしていた。ほかの男子たちを置き去りにして、トップを独走している。
「すごいね」「速い速い」と女子が騒ぐなか、なぜか真帆だけは、真剣な面持ちで立ち尽くしていた。濱くんが一位でゴールした瞬間、はじけたように笑いだす。はしゃぎながら高橋さんたちと抱きあう真帆に首をかしげていると、由佳子が言った。
「向野さん、うれしそうだね。やっぱ彼氏だからかな」
「え?」