【期間限定公開】『もう二度と食べることのない果実の味を』第27話

17歳で「女による女のためのR-18文学賞」で鮮烈なデビューを飾った作家・雛倉さりえさんの最新作『もう二度と食べることのない果実の味を』(通称:たべかじ)が4月16日に刊行されました。CanCam.jpでは大型試し読み連載を配信。危険な遊びへ身を投じたふたりの運命、そして待ち受ける結末とは……。

*第23話~28話(最終話)は、掲載日から2019年5月14日(火)までの期間限定公開です。

「たべかじ」連載一覧

【期間限定公開】『もう二度と食べることのない果実の味を』第27話


もう二度と食べることのない果実の味を

 シャワーから戻ってきた土屋くんが、わたしをみて、大きく目をみひらいた。

 なんでもない、と言おうとしたけれど、胸が詰まって喋れない。土屋くんはしばらく口をつぐみ、それから、うつむいた。

「こんなことになって、ごめん。ぜんぶ、僕のせいだから」

 ちがう。わたしのせいだ。

 自分がしてしまったことの積み重ねで、わたしは今、ここにいるだけだ。そんなふうに優しくされる権利なんて、ないのに。

 そう思ったけれど、涙ばかりがあふれて、うまく言葉にならない。

 かわりにわたしは、ゆっくりと腕を伸ばした。土屋くんの首に手をまわし、そっと引き寄せ、くちづける。

 土屋くんは抗うそぶりもみせず、されるがままだった。

 ごめんなさい。心の内で、わたしは呟く。母。父。姉。美由さん。そして、土屋くん。たくさんの人を巻きこんで、裏切って。それでもまだ、やめられない。

 すべてのはじまり。わたしと土屋くんが今、ここにいる理由。ふたりを誰より深く結びあわせ、同時に破滅をもたらしたもの。

 それが、セックスだった。

 わたしたちの、唯一の、やり方だった。

 彼の膝にまたがって、もういちど唇をかさねた。ぶかぶかの部屋着のなかに、そっと手をさしいれる。

 鎖骨のくぼみ。ざらざらした肱。背中のにきびの痕。歩きなれた庭を散策するように、指で、舌で、体をさぐる。回数を重ねるうちに、わたしたちは互いの体のすみずみまで知り尽くしていた。どこに触れるにしても、戸惑ったりためらったりすることは、もうない。

 熱い指先が、下着のなかに入ってくる。指先が乳房の先端をかすめ、背中がびくりと反った。もう何十回もくりかえしてきた行為なのに、快楽はいつも新鮮で、あざやかだ。

「山下さん、熱ある?」

 肌にふれた土屋くんが驚いたように言った。

 わからない。でも、やめないで。

 そう答えるかわりに土屋くんの腕を引っぱって、シーツの上に倒れこんだ。