幸せな正解はどこにある?北条かやが語る、現代女性の幸せ

「結婚しない」現代女性たちの女心をひも解いた本、『本当は結婚したくないのだ症候群』の著者である、北条かやさんへのインタビュー後編です。

前編では「結婚をとりまく現代の状況」についてうかがいましたが、後編では「結婚を成功させなければいけない強迫観念に追われる女性たち」「モテへの疲労」などといったトピックについて、引き続きうかがっていきます。
現代女性のリアル、とくとご覧ください。

 

前編はコチラ→ 北条かやが語る、現代の結婚「もっと、結婚から自由になっていい」

表紙

 

 

◆「成功しなければならない」症候群

Woman Insight編集部(以下、WI) 私は今27歳なのですが、「成功する人生」の幅がすごく狭いように感じます。まず、結婚していないと「成功」のスタートラインにも立てていないし、その結婚にも「成功パターン」がある、というか。

北条かやさん(以下、北条) さまざまな女性の方にインタビューしていても、やっぱり「結婚で失敗したら嫌だ、成功させなければいけない」という雰囲気に満ちています。実際は結婚したカップルの3割は離婚するし、再婚も珍しくないというのに。「成功する結婚とは何か」という本や記事も溢れていますよね。

 

WI でも、よくメディアでは見かけるキラキラした結婚……というか、誰もがうらやむような相手と、キラキラした結婚式を挙げる人って、実際そう多くはないような気がするんですが、どうなんでしょうか。

北条 入籍した方のおよそ半数が挙式や披露宴をしていない、 というデータ もありますし(※1) 、何百万もかかる豪華な披露宴をする人って、実はそんなにいないのに、メディアで目立つのはどうしてもそういう人たちになります。でも実際は90年代に流 行った「地味婚」を通り越して、今は入籍だけ、軽い飲み会程度で報告の会をする、という「ナシ婚」もありますよね。

 

WI やっぱりそうなんですね……。

北条  でも、ナシ婚の人たちは目立たない一方、豪華な披露宴をする人たちは目立つ上、それが「めちゃくちゃ幸せで勝ち組!」 という風潮があるから、結婚のハー ドルもどんどん上がって、「結婚にかかる費用が高すぎて結婚できない」と思っている人が増えている印象があります。結婚なんて要するに紙一枚のことなの に、式を挙げないと親が許さないとか、親戚に顔が立たないとか……そういうことが、本来あるべき「自由」を侵している、そんな感じがします。……あと、話 は変わりますが、「モテ服」の話をしてもいいでしょうか。

 

WI お願いします。

北条  これも「婚活ブーム」とほぼ同時期の2007〜8年くらいのことなんですが、いわゆる赤文字系の女性ファッション誌が「これからはモテじゃなくて愛され だ」と言い始めたけれど、最近あんまりそういうことを誌面で見なくなりましたし、ファッションの流行もカジュアルなものやマニッシュなものが多いじゃない ですか。

 

WI 確かに、最近「これはモテとは程遠そうだ……」というファッションが流行することが多いですよね、たとえばガウチョパンツとか。

北条  そうですね、ハットとかジレとか、ジョガーパンツも……雑誌でエビちゃんもえちゃんが、体が泳ぐようなゆるっとサイズ感で着ていたらかっこいいけど、それ を一般的な日本人女性体型の自分に置き換えたら、これ、キレイに見えるかな、大丈夫かな? と思う服が結構多い。でも、そういうファッションがはやってい るのって、女性たちが「モテ」に疲れたのもあるんじゃないかと思っています。

 

WI 最近「合コンワンピ」の特集とか、ほとんど見ませんものね。

北条 減りましたよね。スニーカーやフラットシューズがはやってヒールも減りましたし……。モテない服は着ちゃダメ、といった感じから自由になったのはいいですよね。

 

◆幸せって、なんだろう

WI ……極論、どうしたら幸せに生きていけるんでしょうね。

北条 ここまで価値観が多様化していると、何が幸せか、というのは自分で決めないといけない時代です。雑誌やテレビドラマ、芸能人が発信するキラキラした生活に、「正解っぽい人生」や「成功っぽい結婚」はありますが、それも絶対的なものではないですし、おそらく、幸せな人は自分が幸せかどうかなんて考えない 。

 

WI 考えすぎないくらいのほうがうまくいくんでしょうか。

北条 現代は、相対的に社会を見ていないと振り回されてしまう社会なんだな、と思います。価値観が多様化しているから、何を信じればいいかわからない……というか、あまりにも自由だからこそ、100%正解だ、という道に行きたがる人が多いんですよね。で、正解の方へ行けない自分を責めてしまう。

 

WI 今の「正解」は、なんとなく雑誌を見ていると、幸せな結婚をして子どもがいて、家庭も仕事も超充実なキラキラワーキングマザー……という印象ですが、いかがでしょうか?

北条  2000年代の後半くらいに勝間和代さんが出てきて、そのあたりから「ワーキングマザーがいちばん偉い」風潮が続いていますよね。勝間和代さんって、もと もとワーキングマザー向けのサイトを運営していて、それでウォール・ストリート・ジャーナルの「世界の最も注目すべき女性50人」に選ばれて有名になった 方で。「婚活ブーム」のちょっとあとくらいから、政府も本格的にワーキングマザー礼賛のムードを強めました。

 

WI でも、実は豪華な披露宴を行う人が少ないように、キラキラしているワーキングマザーの数なんて、もっと少ないのではないでしょうか……。

北条  そうですね、実際の多くのワーキングマザーは、本当はたくさん働きたいのに、軽めの仕事の部署に異動になって「くさってしまう」ことがかなり多いらし く……本当に、さっきの「何が幸せか」じゃないですけど、何がいいか、わからない時代ですよね。仕事を続けても周囲の理解がなかなか得られず大変だし、結 婚して子どもを産んで専業主婦になっても大変だし。でも、調査によると、なんだかんだ、専業主婦の幸福度がいちばん高い、というデータもあります。女性たちが悩むのも当たり前です。

 

WI 個人的に主婦の方ってすごくインスタグラムを活用していて、見ているのはすごく好きなんですが、北条さんは見られますか?

北条  知人のものを見たりはしますね。すごくきれいな料理をアップしていたり、お部屋のインテリアをアップしていたり……見ていると、自分だけできれいに作り上 げた完璧なドールハウスで世界が完結している……というような印象を受けます。それはそれでもちろん幸せのひとつですが、「私はこのドールハウスが気に入ってるから、あなたも買ったら」という感じで押し付けてこないでほしいな、とは思います(笑)。

 

WI  いや、確かにあなたは幸せそうだけど、私にはそのドールハウスは趣味じゃないっす、というの、ありますよね。個人的な話で恐縮ですが、私はアイドルが好き で、このアイドルいいよ、と布教はするけれど、これを好きにならなきゃ人生損してる! とまでは言いません。でも、恋愛教・結婚教の人たちはひたすらその 価値観を押し付けてくるというか……なんか、もう、放っておいてくれ、となります(笑)。

北条 その、放っておいてくれ……というのは、いわゆる「消極的自由」ですよね。

 

WI 「消極的自由」とは何でしょうか……?

北条  哲学者のバーリンが唱えている言葉で、「自由」には、「〜からの自由」を指す「消極的自由」と、、「〜への自由」を指す「積極的自由」があります。消極的自由は、他者の強制的干渉が不在の状態を指します。

 

WI 「結婚」で説明すると、どういうことでしょうか?

北条 ざっくりと説明すると、 積極的自由は「自由に結婚できること」、消極的自由は「結婚しない自由もあること」ですね。積極的自由における、「結婚できる自由」も大切ですが、「消極 的自由」は、そもそも「結婚しろ!」という圧力すらなく、結婚から自由になっている状態を指します。両者は同じ「自由」ですが、まったく別物ですよね。私はこの「消極的自由」の考えに本当に賛同していて。こちらはこちらで幸せに生きるし、結婚したくなったらするから、放っておいてほしい、侵食してこないでほ しい……それをこの本で伝えたかったんですよね。

 

WI なるほど、ありがとうございます。そうして結婚や恋愛の道から外れるというか、その道から自由になると、私などはつい、「私非モテだから!」という「自虐芸」に走ってしまうわけですが、この「自虐」ってどうなんでしょうね。

北条  そうですね……自虐ネタって、まず疲れますよね(笑)。「私のこといじっていいですよ、笑っていいですよ」とピエロを演じることが、うまくやれば面白くな るかもしれませんが、結構取扱い注意ネタなので、下手にやると痛々しくなって笑えもせず、大失敗になってしまう。私もたくさん失敗してきました。

 

WI 北条さんでも自虐芸で失敗するんですね……! たとえば、どのように?

北条 私は大学院卒なので、最初に勤めた会社では同期より基本的に2歳年上でした。「私はもうおばさんだから……」と言ったら、同期の男性に「それはやめたほうがいいよ」と、結構本気で忠告されて。「そんなことないよ」以外言えなくなる空気ってあるじゃないですか(笑)。そんな、双方にとっていいことがない「自虐」になってしまうこともあって……難しいですよね。

 

WI 自虐と言えば「負け犬」問題も本書で取り扱われていましたよね。

北条  「負け犬」も、最初は独身女性が自由に生きるための概念だったんですが、どんどん実際の『負け犬の遠吠え』を読まないままに「負け犬になっちゃダメ」とい う意味で言葉だけが一人歩きして、そこにさらに「婚活」がセットになって、「結婚を成功させなければ!」という圧力が若い世代にかかりました。そういう人 に、この本を読んでいただいて結婚の歴史を知ってもらって、自分は実はこういう価値観に縛られていたけど、もっと自由になっていいのかもしれない、と思っ ていただけたらいいな、いろんな価値観を提供したいな、と思い、『本当は結婚したくないのだ症候群』を書きました。よかったら、読んでみてください。

 

WI ありがとうございました!

インタビューでは本書の内容もかいつまみながらご説明いただきましたが、『本当は結婚したくないのだ症候群』本書では、さらに詳しく現代の「結婚」に関して紹介されています。
結婚を取り巻く事情に関してモヤモヤしている人、疑問に思っている人が読むと、「そうだったのか!」とスッキリすることもあるはず。ぜひご覧になってみてくださいね。(後藤香織)

表紙

『本当は結婚したくないのだ症候群』
北条かや 著/青春出版社
1,300円+税

※1 出典:みんなのウェディング「ナシ婚」に関する調査 2015 http://www.mwed.co.jp/press/release/20150312140000 

 

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