「両親のセックスレスも反映した」AV女優紗倉まなさんの初小説『最低。』インタビュー

2月の発売から数か月経った今でも売れ続けている、現役AV女優、紗倉まなさんによる処女小説『最低。』が話題となっています。

AV業界にまつわる4つの短編を現役AV女優が書く……ということで、どんな話なのだろう?と軽い気持ちで手に取ったが最後、初の小説とは思えないその描写力、そして自らの経験も活かされているであろうそのリアルさに息を飲み、一気に読了してしまいました。

いったいどうやってこの物語たちは生まれたのか……それに迫るため、Woman Insight編集部は紗倉まなさんに独占インタビューを試みました。

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Woman Insight編集部(以下、WI)『最低。』読ませていただきました。これまでもコラムやエッセイは書かれていますが小説は初めて、とうかがいました。初小説とは思えないほどに素晴らしかったのですが……実は昔から人知れず小説を書いていた、ということなどはあるのでしょうか?

紗倉まなさん(以下、紗倉)いえ、学生時代は、小説どころか、読書感想文も親にお願いするほど文章が苦手でした(笑)。この仕事を始めてから、ブログやTwitterなど、文字で発信する機会が増えたところから、書く癖がつくようになりました。

 

WI となると、小説を書くようになったのはいつからでしょうか?

紗倉 以前、2~3日入院したときに、何もすることがなく、何か書いてみようかな……とたまたま思い立ったのがきっかけです。それで自分の今までのことや、仕事のこと、たまったストレスを、小説のような、日記のような感じで書きました。その話を高橋がなりさん(※紗倉さん専属のAVメーカー、ソフト・オン・デマンドの元代表。AV界の伝説的人物)にしてみたら、見せてみろ、と言われ、持っていったら……「なんだこのクソみたいな文は!」と罵られて(笑)。

 

WI 罵りからのスタート……(笑)!

紗倉 しかも、それが原稿用紙80枚分くらいあったんですよ……! 当時持っていたガラケーで2~3万字くらい書いて……相当モヤモヤがたまっていたんでしょうね(笑)。がなりさんにも「本当お前は下手くそだな、でも80枚書いてきた熱意だけは認めてやるよ。だからもっとちゃんと文を磨け」と言われて。そこからしっかり書くようになりました。最初に書いたそれは、言葉は悪いんですけど、私にとって、本当にたまったものを吐き出す、ゲロのようなものだったんでしょう……。でも、人に見せるなら、せめてもう少しきれいなゲロにしなければ、と。

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WI その“ゲロからのスタート”があり、がなりさんの教え通り文を磨いて今があるわけですが、今回本格的に小説を書くことになったのには、どんないきさつがあったのでしょうか?

紗倉 今回の小説の担当編集の方には、はじめインタビューきっかけでお会いしたんですが、小説を書いて見せて欲しい、ということで、短編をいくつかお見せしたところがはじまりですね。

 

WI それはどのようなお話で?

紗倉 アパートの壁視点のお話や子宮のお話など、ちょっと変な短編をいくつか書いて出したんです。そうしたら編集さんが、「これはこういう思考でこう書かれたんですね」と、すべてを優しく受け止めてくださって……!「なんでこんなに理解してくれるんだろう!? 人間ってすごい!」と、そこからのご縁で小説を書くことになりました。

 

WI 今回は紗倉さんに近しい「AV業界」をテーマとされており、4章立ての短編集……となっていますが、これはどのように考えられていったのでしょうか?

紗倉 AV業界の話、ということは共通しつつも、それぞれ抱えているものは違う女の子たちの話を書いていこう、と決まって、そこからひとりひとり年齢や好きなもの、どういう生活をしているか、ということを編集さんたちと一緒に考えていきました。設定がかたまったのは去年の6月くらいですかね。そこから約半年がかりで書き上げました。打ち合わせをする回数がとても多くて、1か月に2~3回会うときもあって、恋人みたいでした……あっはっは(笑)。特にクリスマス近辺がすごかったんですよ。

 

WI おや。これはロマンスの予感ですね。どうすごかったんでしょう?

紗倉 いつもさびしいクリスマスを送っているので、毎年AVの撮影を入れているんですけど(笑)、今回は12月くらいがいちばんこの本の〆切に追われている時期で。クリスマスに、KADOKAWAさんの、通称「紗倉部屋」と呼ばれたなにもない会議室に、カンヅメになりました。クリスマスだし、何かしらクリスマスっぽいことが用意されているんじゃ……と思ったんですが、特に何もなく、じゃ頑張ってください、と(笑)。

 

WI ロマンス、なかったですね(笑)。さて、今回の小説は「AV業界にまつわる女性たちの話」ですが、これはやはりご自身の経験を反映して書いた、ということなどもあるのでしょうか。

紗倉 そうですね、たとえば第3章の「美穂」はセックスレスの夫婦の物語なのですが、これは自分の両親の話を使っています。両親がすごくセックスレスだった……ということを、結構小さい頃から聞かされていたんですよね。

 

WI ……小さい頃からセックスレスの話、とは、なかなかオープンな家庭ですね!?

紗倉 そうですよね(笑)。私も小学校くらいのときにはそういうことについて少しだけ知っていたので、「しないの?」「え、全然しないしない、ほんとにしない! 私あんまり好きじゃないんだよねー」「お父さんはそういうの好きじゃないの?」「お父さん……好きなんじゃなーい!?」って会話をして……(笑)。両親が結婚してから13年くらい私が産まれなかったんですが、結構それが長かったんだよね、って。

 

WI ちなみに何をきっかけで、そんな話になったんですか?

紗倉 確か、ですけど、小学校のときに「名前の由来を聞いて書け」という課題があったんですよ。その話を聞いているうちに、そもそも私はどうやって生まれてきたんだろうという話になって。最初は「コウノトリが運んできた」とか「山の上で拾ってきた」とか「実はあなたはサルの子なのよ」とか変な童話を作られていたんですけど、途中からセックスレスの話が出てきて(笑)。あまりに赤裸々に聞いたので、すごくいろいろ想像しちゃって、親がしてる夢を見ちゃう時期もありました(笑)。

 

WI 幼心になかなか衝撃ですよね……。

紗倉 そうですね、そしたらちょうど人妻の設定を書くことになったので、これだ、セックスレスの話にしよう、と。3章のセックスレスと4章の孤独な感じの少女は、自分が経験してきたことではないけれど、自分に近しい境遇ということもあり、書きやすかったです。逆に、たとえば1章の「彩乃」のような、同世代の子の話だと、変に自分のいろいろが入ってきて……あまり自分のことを書くと、恥ずかしくなってきちゃうんですよね。すごく自分のこと好きで、自分に酔ってるみたいに見えちゃう感じがして……。

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WI 今回の本はなぜ『最低。』というタイトルにされたのでしょうか?

紗倉 タイトルをいちばん最後につけたのですが、これは主人公の女の子4人の心の中で絶対つぶやかれるであろう言葉が「最低。」なんじゃないか、ということで、そのタイトルにしました。

 

WI あぁ! すごく腑に落ちました。

紗倉 「最低」に「。」をつけたのもそういう理由です。セリフっぽくしたかった……というか、自分自身がしていることに対しての、ちょっとしたうしろめたさや罪悪感を振り返ったときに、女の子たちが何を思ったり、どういう心の声を出すんだろう、と考えたら、これがいちばんしっくりくるな、と。

 

WI なるほど……たとえば1章「彩乃」ではAV女優をしていることの親バレ、3章では既婚者のAV出演など、さまざまな「うしろめたい」「理解されない」がありますよね。

紗倉 これが「なるほど」と思うのは女性だけらしいんですよ。今回読者の方も半分以上は女性の方みたいで……。一度この本のトークイベントをしたときも、「私はこういう意味でこれを書いたんですよ」と言っても男性は「うーん……?」と、わからなそうな顔をしていたんです。

 

WI 意識の男女差……じゃないですけど、理解しあえないところをすくいあげたのはさすがですよね。

紗倉 ……そうやって皆さん、書いた自分よりもいろいろ深読みしてくださるんですよ……! この本の表紙の絵を描いてくださったあこさんも、今回採用された絵の他に、1章の「彩乃」がかかとの水ぶくれをつぶしているようなシーンを描いてくださって、あ、そこをピックアップするんだ、と。それって男性にはあまりない観点なんじゃないか、と思います。

 

WI ちなみに、他にもタイトルの候補はあったのでしょうか?

紗倉 そもそもタイトルをつけることを忘れていて、「そっかタイトルってつけなきゃいけないんだ!」と思って(笑)、自分で一度通読したあとにフィーリングでばーっと書いていって。灰汁(あく)、とか。最悪とか、極悪とか、いろいろ(笑)。

 

WI おぉ、悪そうな字面がたくさん……(笑)! 漢字二文字、ということは揺るがなかったんですか?

紗倉 揺るぎませんでした。少ないワードで、漢字二文字でおさめたいと思って。

 

WI ところで今回、1~3章はAV事務所の社長「石村さん」が共通して登場する物語で、最後の4章「あやこ」だけは出てきません。この章だけ一切つながっていないように見えるのですが、これは実はつながりはあったりするのでしょうか?

紗倉 いや、これは、ないです。1~3章が「AVに出ている女性」で、AVを経験したからこその悩みや葛藤を持つ女性が主人公に対し、4章は「AVに出ている女性を母親に持つ女性」が主人公、ということもあります。4章だけひとりぼっちな感じになってしまったんですが、これはこれで、この話の孤独さも表せているんじゃないかな、と思います。

 

WI 最終章である4章がいちばん最初にあがった、というのが意外です。考えに考え抜かれて、さぁこれだ! という感じでまとまったのでしょうか。

紗倉 ……いえ。日本酒で泥酔して、マキシマム ザ ホルモンを聴きながら、感情がほとばしった状態で、原型となったものを書きました。

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WI ……ほう!?

紗倉 私の場合、さあ書くぞ、と決めて書くと、こう書いたらこう思われちゃうかな、とか、そういうことを気にして体裁を取り繕うのに必死になって、ぎこちなくなってしまうんですよね。でも、そういうことを気にしている時点でダメ。でも泥酔した状態だと、とにかく自分が書きたいことを書く! と、心を出せたんでしょうね(笑)。

 

紗倉さんが深く関わってきた「AV業界」に寄り添い、リアルな描写に心揺さぶられる『最低。』是非読んでみてくださいね。

さて、次回からは『最低。』に絡めた、セックスに対するありがちな疑問を紗倉さんにぶつけていきます。お楽しみに!(後藤香織)

 

『最低。』
『最低。』
紗倉まな 著 1200円(KADOKAWA)

 

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